自社工場を持つということ。それは何を守ることか。

自社工場を持つということ。それは何を守ることか。
本記事で分かること

・大邱(テグ)のヌビ産業に今起きていること 

・Kiim' studioが自社工場を持ち続ける理由

・内製化することで生まれるもの 

・28年間、この工場にいる職人の話


少し前まで、私たちの工場の周辺にはヌビを作る工場がいくつもあった。

今は、ほとんど残っていない。

工場の機械が並んでいる写真



なぜ、工場は消えていくのか

私たちの拠点である大邱(テグ)は、1930年代から繊維産業が盛んな街だ。しかし2000年以降、大邱の繊維産業は縮小が続いており、ヌビを作る工場もその流れの中にある。


なぜこうなったのか。理由は大きく分けて3点ある。

まず1点目は、職人不足だ。

ヌビの加工は機械だけでは完結しない。素材の状態を手で確かめ、今日の布にはどの設定が合うかを判断する。

その感覚は、長い時間をかけて身につくものだ。若い世代がこの仕事を選ぶことが少なくなり、技術を持つ人間が減っていった。


2点目は、コストが上がり続けている点だ。

人件費と原材料費の高騰が続く中で、品質を落とさずに採算を取ることは難しくなった。多くの工場が外注や製造縮小を選んだ。


3点目は、技術の均一化が難しい点だ。

職人の技術を一定のレベルに教育し、複数人で同じ品質を出し続けること。これが言葉にすると簡単に聞こえるが、実際には難しい。

ヌビ加工は、数値で完全にマニュアル化できる仕事ではないからだ。こうした理由が重なり、周辺の工場は少しずつ姿を消していった。

工場の機械が並んでいる写真



私たちが残っている理由

正直に言うと、Kiim’ studioが今もここにいるのは、早い段階で自社工場を内製化したことが大きい。


外注という選択肢はあった。製造を外注すれば固定費は下がる。でも私たちはそれをしなかった。正確に言えば、しない選択をした。


理由はシンプルだ。ヌビの品質は、作る現場でしか担保できないから。

素材を触り、縫い目を確認し、今日の仕上がりを判断する。その工程を外注した瞬間、私たちが大切にしてきたものを守れなくなる。技術的に外注が難しいという側面もあるが、それ以上に、外注という形では「このクオリティ」を維持することは容易ではない。


だから、工場を持ち続けた。職人を育て続けた。大邱という街に根を張り続けた。結果として、それが今の私たちを作っている。

職人が作業している手元、生地を確認している



工場があることで、できること

自社工場を持つことで、外注では生まれないものがある。

素材の探求が深くなる。

製造現場にいると、素材の微妙な変化が見える。この綿はいつものより少し硬い、この生地は湿度の影響を受けやすい。そういう感覚の積み重ねが、より良い素材の選択につながっていく。工場の外にいたら、気づかないことだ。


品質が一貫する。

作り手と届け手が同じ場所にいることで、品質のブレが起きにくい。どのロットも同じ手触りを目指せるのは、全工程を自分たちで管理しているからだ。


企画・開発のスピードが上がり、生産のコントロールがしやすくなる。 

新しいアイテムを考えたとき、工場があれば試作がすぐにできる。素材を変えたい、縫い目の間隔を調整したい。そういった判断をその場で下せる。

外注していれば、やり取りのたびに時間がかかる。自分たちで全工程を持つことで、企画から完成までの流れを細かくコントロールできる。


そして、もうひとつ大事なことがある。

工場があることで、雇用が生まれる。

地元に根付き、人を育て、この街でヌビを作り続ける人間が存在し続ける。それは品質や効率とは別の次元の話だが、私たちが大切にしていることのひとつだ。

複数の職人が作業している様子



28年間、ここにいる人のこと

工場に、28年間この仕事を続けている職人がいる。

彼女が最初にここに来たとき、私たちの工場はまだ始まったばかりだった。それから28年、彼女はほぼ毎日この場所でヌビに触れてきた。


技術を言葉で説明するのは難しい、と彼女は言う。

数値で設定できる部分はある。でも「今日のこの布には、この間隔が合っている」という判断は、長年の感覚からしか出てこない。新しい職人に教えるとき、最終的には「触れてみてわかるしかない」という部分が残る。


周辺の工場が減っていく中で、彼女のような職人がまだここにいる。それが私たちの一番の財産だと思っている。彼女が感じ取ってきた28年分の感覚が、今日作られるヌビの中に込められている。

職人の手元のクローズアップ、生地を確認している様子


 

これからも、ここで作る

工場を維持することは、楽ではない。

コストは上がり、職人を育てるには時間がかかる。もっと効率的な方法はある。でも私たちが守りたいのは、効率ではない。


ヌビという素材が持つ柔らかさは、丁寧に縫い合わせることからしか生まれない。その「丁寧さ」を担保できるのは、自分たちの工場と、そこで働く職人たちだけだ。


周辺の工場がなくなっていく中で、私たちはここに残っている。それは偶然ではなく、選んできた結果だと思っている。これからも、大邱のこの場所で、同じことを続けていく。

工場の外観



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ヌビという素材を、実際に確かめたい方はこちら。 
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